スペイン・コーチ留学インタビュー(後編)

2012年スペインのメノルカ(2部の強豪チーム)に帯同した保田さんにインタビューしました

保田尭之さんインタビュー第2弾

2012年2月中旬~3月中旬、スペインのプロチーム「メノルカ・バスケット」に帯同してコーチとして学んだ保田さん、バスナビさんに掲載されたインタビューの後編にあたります。後編ではメノルカというチームの事、そして語学面などについて詳しく伺っています。(インタビュアーが交代しています) por とうみん(富田)
インタビュー前編(バスナビ)はコチラ

「英語だけだとメノルカでは難しい」

2004年アテネ五輪でのアルゼンチン、2006年世界バスケでのスペインの金メダルに衝撃を受けたという保田さんに引き続きお話をお聞きしています

―スペイン語はいつ頃から勉強されていたのですか?
大学入学と同時(スペイン語専攻)です。
―スペイン語以外に語学は?
もちろん英語も勉強しています。教職課程を受講しており、スペイン語学科生は英語とスペイン語の中高の教員免許を同時取得することが条件ですので、英語の勉強を欠かすことができません。加えて、プロのスポーツ社会でも英語を話せることは珍しくなく武器になりえると考えているからです。
―日本で学んだスペイン語や英語、メノルカの実際のバスケの現場では通用しましたか?
Más o menosというところです。英語はほとんど使っていません。英語を使ったとしても単語レベルですね。専門的な現場なので、スペイン語によるバスケット用語に苦しんだというところですね。
※ Más o menos(マス・オ・メノス)はスペイン語で「まあまあ」というような意味
―ちなみにカタランは話せますか?何か覚えて帰国しましたか?
それ以前にメノルカでカタランが話されていることさえ知りませんでした(笑)。Bon dia(おはよう) / Bona tarda(こんにちは) / Adeu(さようなら)など、挨拶を中心に覚え、すごく喜んでもらえました。そのとき、やはり現地の言葉で話すことの重要性が感じられました。
※ カタランとはカタルーニャ語の事、メノルカやバルセロナの言葉
―実際の現場ではほぼ100%スペイン語でしょうか?(メノルカはアメリカ人選手が1人以外、全員スペイン人ですよね)
もちろんです。アメリカ人であるTalorの母語は英語だと思いますが、彼は高校生くらい?からスペインに滞在していると聞いたので、コーチ・選手・スタッフ一同スペイン語です。しかし、メノルカではカタランが第一母語であること、そしてチームにバルセローナ出身者が多いことから、彼ら同士はカタランで話していることが多かったです。
※ Taylor COPPENRATH – 2005年Vermont大卒、ギリシャ、イタリアを経て2007年からスペインでプレー
―もし保田さんが英語しかできない状態だったとしたら厳しい環境でしょうか?
大変厳しいと思います。スペイン人の英語は理解できたものでない(非常に聞き取りにくい)し、ヨーロッパの人々は日常会話で英語を話すことを嫌っている印象があるので。
―とはいうもののスペイン人コーチはたいてい英語が話せるんじゃないですか?
一部、英語と仏語も話せると初めてコンタクトをとった際に言っていました、メノルカのチームには外国籍の選手が一人しかいないので、英語を話している様子を窺うことはできませんでした。
―日本で学ぶ場合、もちろんバスケットボール用語などが辞書などにも載っていないと思うのですが、どうやって学びましたか?
現地で学びました。しかし、知りたい単語を引き出す表現は大学で学んできましたし、スペインに何度か訪れていますので現地で学べたのだと思います。富田さんのサイトももちろん活用させていただきました。
―大変恐縮です。では最低限、留学前に知っておけばよかった専門用語などがあればいくつか教えていただけますか?
専門用語を覚えておくことは非常に大切ですが、スペインで生活する中でわからないものは多いはずです。それよりも、その単語の意味を引き出す言葉 ¿Cómo se dice … en español?(スペイン語で~を何と言いますか?)のような言葉が最も必要だと思います。
―なるほど、コモセディセ~ってよく使いますよね。ところで現地での日々の中、スペイン語のバスケットボール用語で印象に残っているものはありますか?
¡Ataca!(アタカ!)です。僕の名前はタカユキなので、Taka(タカ)と呼ばれていて、¡Ataca!(アタカ!)とHCが言うと、よく皆、僕の方を振り向いていました(笑)それから、シュートをうってリングに当たらないことを表現するのに日本では「エアー(ボール)」と言いますけど、スペイン語では¡Agua!(アグア)と言います。
―アグアは実況でも聞いた事があります、本来は水の意味ですが面白いですね。ちなみにアタカ!ってどういう意味ですか?
Atacar(アタカール)は「攻撃する」という意味で、¡Ataca!(アタカ!)はその命令形で「攻撃しろ」という意味です。

チームスポンサーである総菜屋さんに食事を提供してもらいました

日本ではあまり馴染みのないメノルカ島での生活についても伺っています

―アルゼンチン、そしてスペインの影響からスペイン語を学ばれた中、そもそもなぜメノルカだったのでしょうか?
私がMenorca Básquetを選んだ理由は大きく3つあります。1つは昨年度まで所属していたACBに来年度復帰する可能性が高いこと。そして、メノルカ島が日本ではほとんど知られていないということです。最後の日本では知られていないからというのは、観光ガイドなどに載っていないほどの島だということです。それは僕が将来スペイン語教員になったときにこんな小さな島を身をもって教えてあげたいと思ったからです。それはとても重要なことだと考えています。なぜなら、日本のユースの指導の多くは教員がします。教員とコーチは同じ職業です。バスケットだけの知識があっても役に立たないのです。さらにもう一つ理由を付け加えるのであればアットホームな環境にある小さい島のチームだということが挙げられます。
―メノルカでの生活はいかがでしたか?毎日カフェコンレチェですか?
カフェコンレチェも飲めないほどお金がありませんでした(笑)
※ Café con leche(カフェコンレチェ)はスペインで誰もが飲むカフェラテの事
―それは大変ですね。食事などはどうされていたんですか?
最初の3日間ほどは、朝・晩はビスケット、昼はカロリーメイトというところでした(笑)。それを気の毒に思ったチームのスタッフたちがスポンサーである総菜屋さんに、選手同様に僕にも与えてもらえるよう頼んでくださり、3週間僕が好きに選んだものを食べさせていただきお世話になりました。本当に感謝しています。
―街には日本人がほとんどいないものですか?
僕は1人の日本人にも出くわしていません。日本食レストランは2軒ほどありましたが、日本人かどうかわかりません(笑)日本人は僕しかいないと言われたこともありました。滞在中に「世界ふしぎ発見(TBS)」の取材チームが来ていましたよ。
―メノルカのクラブ全体でみても外国人選手、スタッフは少ないですか?
Talorだけですね。(しかし彼はスペイン語を話せます。)
―スペイン人のコーチや選手は日本での指導やプレーに興味を持っていたりしますか?
日本のバスケットへの興味はほとんどありませんでしたが韓国には興味を持っていました。しかしJBLやbjリーグを知っていました。東芝のクリス・モスはかつてMENORCAに所属していました。
―クリス・モスは5シーズンプレーしていますね、彼について何か話をしましたか?
チーム関係者は「俺のことを知っているか聞いてみろ。彼は知っているというぞ。」と言っていました(笑)
―スペイン人のコーチや選手は日本の何に興味を持っていると感じましたか?
トップチームが2つ存在するということ(つまり、JBLとbjリーグが存在)
―このへんはやはりネガティブな反応だったのでしょうか?
トップリーグが2つ存在していることは問題だとチーム関係者は言っていました。そのどちらかがアジアでも名高いリーグとして名声を持っていれば話は別ですが、現実はそうではありません。一つにまとまり、堂々とアジア一と言えるようなリーグを築いてほしいです。
―メノルカの公式サイトに保田さんのインタビューが載ったりしましたが、メノルカの街を歩いていて、声をかけられたりしましたか?現地での反響などは?
バスケットをしている子どもたちに声を掛けられたりしました。どこか店に入ったときや、ユースの試合も社会人に混じってゲームすることがあるんですが、そこで幅広い年齢層から声を掛けられることがありました。

スペインでは「楽しむ」という一貫性が根本にあり、それは幼ければ幼いほど最優先される

トップチームにも帯同して、様々な面でスペインのバスケットボールを体感された部分も伺っています

―メノルカではトップチームに帯同したのですか?
基本的に午前・午後ともにメノルカのトップチームの練習に帯同し、プロバスケットの試合・練習・その他すべての指導の技術を学び、空いている時間をみつけて、週に2・3回下部組織の練習や試合を見に行きました。現在のヘッドコーチはJosep Maríaで、毎日話しましたが、アシスタントコーチやHCの上司にあたる人たちとのコミュニケーションの方が多かったです。マネージャーと共に練習前に練習準備などを手伝い、チームに溶け込み感謝していることを行動に表すことに心掛けていました。そして、トレーナーの仕事(氷嚢作りなど)を積極的に手伝うこともありました。
―ジョゼップ・マリア・ベロカルってすごい経歴のコーチですよね?
ウクライナから戻り、以前はバルセローナにいたと聞きました。月バスにも昔書かれていましたが、日本から倉石修氏が1か月間バルサに視察に行ったことがあります。その際にJosep Maríaもいて、家に招待したとも言っていました。
※ Josep Maríaは2002年から2010年までFCバルセロナのACとしてペシッチやパスクアルさんとともに数々のタイトルをとってきたコーチ、1年間ウクライナのチームを指揮して優勝、そしてメノルカのコーチに就任
―ジョゼップ・マリアさんってどんな人でしたか?練習中や普段どんな様子なんでしょうか?
他クラブのHCの練習中の様子など見たことがないので比較できませんが、とてもserioな人でした。若いHCですが、とても立派な風格とオーラ、そしてカリスマ性を兼ね備えた、指導力のあるコーチだということです。練習中の選手の態度などにも厳しく、注意したその場で往復ダッシュを課すなどしていました。ものすごい情熱の持ち主でもありました。それに加え、スペイン人としては珍しく時間に厳しく一切の遅刻を認めませんでした。
※ serio(セリオ)スペイン語で真剣、真面目という意味
―2部とはいえACB昇格を視野にいれたメノルカ、HCの他にはどのようなスタッフ体制なんでしょうか?
HC1人/AC3人(1人は兼フィジカルコーチであり、もう1人はAC業が副業)/トレーナー主に1人(試合時2人)/マネージャー1人/個人のプレイを調整するコーチ1人(兼カデテHCで、過去ユーストップエンデバーで指導を行っていた。かつてその中でルディ・フェルナンデスやリッキー・ルビオなどを育てた。)ですね。
―トップチームの試合を見て、日本との大きな違いは何だと思いましたか?
2メートルを優に超えていても違和感のないアウトサイドシュートやドライヴが出来るところですね。
―下部組織の練習や試合もご覧になる中で、やはり日本との大きな違いは何だと思いますか?
スペインの指導には一貫性があると感じました。「楽しむ」ということが根本にあり、それは幼ければ幼いほど最優先される部分が大きな違いだと思います。
―ジュニアチームの身長は日本より大きいのですか?もしくはあまり小さい選手はいないものですか?
Menorcaにあるユースチームの子どもたちは日本の子どもとさほど変わらなかったかな?というほどで、もしくは少し高いというほどでした。しかしトップチームのユースはもちろん高さはあると思いますよ。
―トップチームでは2m以上の選手でもアウトサイドやドライヴができる選手というお話でしたが、これは下部組織の練習を見ていて特に要因を感じる部分がありましたか?
Menorca Básquetの下部組織とメノルカ島にあるユースのクラブチームの練習の様子や試合の様子しか見ていないので一概には言えないのですが、幼い頃(※小学校よりも幼い頃からクラブチームの下部組織に属していることが多い)からバスケットに触れてきた子たちが多いのも要因の1つでしょうし、大きい選手にもセンターと決め付けるのではなくドリブルやアウトサイドシュートを練習させていることも1つでしょう。
―ジュニアチームの選手の技術面は日本と比べてどうですか?
日本の場合は3年単位でチームが変わる(学校が変わる:ex.中学校→高校→大学)ことが普通ですから、個人の能力やスキルを縛ることが多いという印象を受けます。しかし、スペインではフレーム(コーチが指示するルール)の中で自由に1on1をさせる印象があります。それからヨーロッパでは18歳以下のゾーンDFを禁止、スペインではさらに年代を下げ16歳以下のゾーンDFを禁じられています。よってゾーン禁止という制限の中で、すべてのDFの基礎ともいえるマンツーマンDFをしっかりと育成段階で身につけさせていることも日本とは違うところです。中学生の試合、高校生の試合を見てもゾーンを持っていないチームは数少ないというように感じます。終始ゾーンのチームを見かけることもありますが、育成段階におけるDFとしては良いものだとは言えません。
―日本に戻ってから、スペインでの経験がいきた場面、練習で自分が変わったなと感じる部分はありましたか?
練習に対する考えが変わりました。日本のどのスポーツにも精神論が多く含まれていると思います。確かにそれは大切です。しかし、スポーツは楽しむものでもあるのです。ゆえに、しんどい練習をするにしてもバスケットボールにできるだけ触れさせるように心掛け、メノルカで学んだ練習や練習の仕方などを参考にしアレンジを加え、実用的な練習をつくるようにしています。そして練習時間に関しても出来るだけ考慮し、短い時間で濃密な練習を僕自身も目標にしたいですし、このサイトを見てくださっている方々にもそれを目標にしてもらいたいです。なぜなら、彼らは成長段階であるのでバスケットだけでは物足りず、様々な経験を通じて人間として成長するのではないかと考えます。指導者である我々がそれを理解し、プライベートな時間を提供させてあげる。そうすると我々指導者自身もプライベートな時間を楽しむことができるはずです。日本のスポーツ指導の根本から見直すことが必要なのではないかと考えています。
―ありがとうございました。それでは最後に何かメッセージがあれば。
はい、9月から今度は長期でスペインに行きますが、さらにスペインで経験を積み、将来日本のバスケットボールを国内から活性化させるため、日本のトップリーグ・プロリーグの前線でコーチングに携わっていきたいと考えています。

インタビュー自体は5月下旬に収録したものをやっと公開できた形ですが、8月18日に都内で講演会も開催、そしていよいよ9月下旬から再びスペインでの挑戦を始める保田さんを応援していきたいと思います。

なおメノルカ・バスケットは2部リーグのプレーオフを制覇し、2012-13シーズンの1部ACB昇格を決めたのですが、スペインの経済危機の影響もあり7月に倒産、チームは存続すらできずコーチ・選手ともに他チームへ移籍という事態になってしまいました。

広告枠
(現在広告はありません)
2012-09-12 | Posted in インタビュー記事Comments Closed 

関連記事